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大阪高等裁判所 昭和47年(う)426号 判決 1972年7月26日

本店の所在地

神戸市葺合区磯上通八丁目三番地

法人の名称

中央実業株式会社

代表者の住居

神戸市生田区北野町二丁目一二二番地

代表者

代表取締役 林同春

本籍

中国福建省福清県高山市六十都東瀚

住居

神戸市生田区北野町二丁目一二二番地

会社役員

林同春

一九二五年七月二日生

右中央実業株式会社並びに林同春に対する各法人税法違反被告事件につき昭和四七年一月二五日神戸地方裁判所が言渡した判決に対し原審弁護人横田静造および被告人林同春からそれぞれ控訴の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 碩巖 出席

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は弁護人横田静造作成の控訴趣意書のとおりであるから、これを引用する。

論旨はいずれも量刑不当を主張するものであるが、所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果を参酌して案ずるに、本件はボウリング遊技業等の経営を営業目的とする被告会社の業務に関して同社の代表取締役社長である被告人林同春が資金繰りに窮し法人税を免れようと企て、原判示年度における実際所得金額をゲーム料収入の一部を除外しこれを架空名義で預金する等の不正の方法で秘匿し、所轄税務署において税務署長に対し原判示の虚偽の法人税額確定申告書を提出し、もつて不正の行為により正当税額との差額一二、三四六、一〇〇円をほ脱したという事案であつて、右ほ脱額が多額であることにかんがみると、本件ほ脱が発覚するや、被告人林同春は直ちにその全貌を自供し証拠物件を提出したこと、既にほ脱した本税、加算税、付加税のほか地方税等が完納されていること、被告人林同春は紳商であつて前科前歴なく、本件違反中から反省していたことなど所論の諸点を考慮してみても、原判決の各科刑が重過ぎるとは考えられない。論旨はいずれも理由がない。

よつて刑事訴訟法三九六条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉田亮造 裁判官 矢島好信 裁判官 松井薫)

◎ 大阪高裁判決(昭47・7・26)

昭和四七年(う)第四二六号

控訴趣意書

被告人 中央実業株式会社

右代表者 林同春

同 林同春

右の者に対する法人税法違反被告事件につき、控訴の趣意を左記の通り陳述します。

昭和四七年五月一九日

右被告人等弁護人

弁護士 横田静造

大阪高等裁判所

第一刑事部 御中

被告会社中央実業株式会社を罰金二五〇万円に、被告人林同春を懲役三月(執行猶予二年)にそれぞれ処した原判決は、左記理由により、刑訴法第三八一条に規定する量刑不当に該当すると思料するので、原判決を破棄し、更に御寛大なる裁判を賜わりたい。

理由

一、動機

被告人林の公判廷に於る供述、同人に対する昭和四四年九月一八日付、大蔵事務官藪一雄作成に係る質問てん末書、翌四五年一月一九日付大蔵事務官河上他代作成に係る被告人林に対する質問てん末書によれば、被告人林は、色々な事業を経営しており、その運用資金を捻出する為に、又、事務所及びボーリング場のレーンの増設の資金を銀行借入れする為にする条件としての定期預金の積立、もしくは前記建物や機械等の月賦支払の資金繰の苦しさ等から本件を犯すに至つたことが認められ、その当時としては、事業経営上のやり繰りの為、やむを得ず、ほんの一時的なものとして本件を犯したことが認められる次第である。

二、改悛の情

被告人林の公判廷に於る供述、及び前記大蔵事務官藪一雄作成に係る質問てん末書、本件違反に関与した被告人林の弟林同善に対する昭和四五年四月八日付検察官作成の供述調書、大蔵事務官河上他代作成に係る被告人林に対する昭和四五年一月一六日付質問てん末書によれば、被告人林は、昭和四四年九月一八日午前九時頃、大阪国税局収税官吏等に、会社事務所等の捜索を受け、自からは、神戸税務署に於て取調べを受けたのであるが、同日、正午頃には本件違反の全貌を自白し、本件を立証すべき、所謂、裏帳簿類、即ち国税庁差押第二号乃至第六号の手帳等を自ら進んで提出し、その取調に協力すべきことを誓つておる。のみならず、被告人林の公判廷に於る供述、及び昭和四五年一月二二日付被告人林に対する大蔵事務官河上他代作成の質問てん末書、並びに前記被告人林の弟でパートナーであつた林同善の昭和四五年四月八日付検察官に対する供述調書によれば、被告人等は、大体昭和四二年九月頃には資金的な目処もついたので、斯様な悪いことはやめようと話し合い、昭和四三年即ち第四期中から売上除外するのを漸次減らしてきていた。一度に違反をやめると、それ迄のことが発覚する虞れがあつた。

かくして、昭和四五年八月決算期には、売上除外を零にすべく漸次減少してきていたのである。右の減少事実は、売上除外金の各期別の推移を帳簿に徴してみれば、一見明暸であつて、本件査察官並びに検察官もこれを認めておられることは、一件記録上、容易に看取し得るところである。

換言すれば、違反中から反省し、改心して、その過誤を漸次是正しているところを検挙されたのであるから、検挙と共に全てを自白し、恭順の意を表した次第である。

三、違反額の納税

被告人会社は、本件違反により、数千万円にのぼる逋脱税、加算税及び付加税等を納めている。その詳細は、法廷に於て、書類により立証する予定である。

四、被告人林及び被告会社の経歴

被告人林は、七才の頃来日し、終戦と共に来神し、神戸、大阪に於て、繊維業を営み、昭和三八年頃からボーリング場の経営を始め、被告会社中央実業株式会社を設立し、その代表取締役となり、その他多数の会社の重役を勤めており、昭和三九年頃から、神戸東ロータリークラブに入会、紳商であつて、もとより何等前科、前歴なきものであり、被告会社としても、違反は本件が初めてである。

五、結び

以上諸般の情状を斟酌すれば、原審の判決は、重きに過ぎると思料するので、破棄の上、御寛大なる御判決を賜わりたい。

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